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【週末限定公開 7.28 2019】大学物語 4

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朝靄が煙っている

ずーっと道成に、足を進める。

荒く息を吸うと 湿った空気が流れ込む。

夕べの大雨の名残は いくつもの水溜まりとなって点在する。

あそこベンチまで あの街路灯まで 目標を決めて僕は駆ける。

キャンパスまでは まだ遠く いつもの駐輪場を目指す そこまで走れば なんとかなる。

なぜ走っているのか? それは ただの体力作りだ。 以前に僕は少し恥ずかしい目にあったから、、、
もっとカッコ良くありたいんだ。十代の発達は更に加速する今だからこそ。

僕の肉を摘まんで嬉しそうに笑った あの先輩が見惚れるくらいの男になりたいからね。

よしもう少し、サワサワと葉を揺らす柳の木まで.....そこで休憩だ。

低く立ち込める靄が柳を遠くかすませて見える。 ほんの近くまで全速力?を出してみた。

ハァハァ…

柳の後ろに誰かいる。 まだ開校までは3時間ほどある。散歩の人だろうか…

湿ったベンチを拭いて座る。後ろの人が気になったが、僕は水筒の水を一気に飲んだ。

「ふぅ 疲れた… はしるの苦手だー」

息を切らす僕の後ろで声がした。

「キット?」

声に驚き振り向くと シントーが立っている。

「ピーシントー??? 何してるんですか?」

正直 僕以外の大学生がこんな早朝に敷地内にいるとは思わなかった。

「キットこそ どうしてこんなに早いの?」

「あ…いや… 体力作りです。。。ただの。ぴーも?」

制服をキッチリと着たシントー先輩

体力作りではなさそうなのは目に見えて解ったのだが、理由が検討も付かない。

「僕ね 今日、誕生日なんだ。」

「オィ ぴー そうなんですか?おめでとうございます!」

「ありがとう。」

「…で 誕生日の朝に ここで何を?」

「ああ そうだったね… 僕もベンチに座っていい?」

僕らは ベンチに並んで座り、シントーは 自分の水を一口飲んで ゆっくりと話始めた。

誕生日の朝に 自分が関わる場所を回ること

父親が住む実家

母親のお墓

大学。 もちろん中学校も高校も いつの頃からか 誕生日の日 一番最初にする事に決めたんだ。 感謝をしたくてと シントーは話してくれた。

「昼からは 友人や叔母に会って、最後は父さんと過ごすんだ。」

そう言って シントーは微笑んだ。

「ぴー 今日最初に会った人って僕?」

「そうだね。」

「ごめんなさい 僕で…」

オーィ キット なんで謝るの?と頭を軽く叩かれた。


「キットは 僕の大切なノーンだよ。」

僕たち 仲良くなったでしょ?と微笑む。

6時53分 3度目の可愛い笑顔を僕に向ける先輩

大切なノーン。

嬉しかった。

例え 同じ学部の後輩という意味だとしても。

「ぴー ケーキがここにあったら… あなたの願いを叶えられる一端であったかな…」

僕は この人の何でありたいのか 今はっきりと解った気がした。

「来年からは キットがケーキを運んでくれるの?そうだったら嬉しいな。」

汗が徐々に引いて ミストがまとわりつき涼しい。
葉の隙間が黄金色に輝きだす。
新しい朝の訪れ。

シントーの額にキスをする。

「…キット?」

「僕の家族はそうするんです。幸せを祈って。」

「僕も 君の家族と同じでいいの?」

「ぴーは僕のぴーでしょ? だから一緒。」

この先 僕らがどうなるかなんて解らない。

違う道に進んでも、できた縁は紡がれる。

僕は 少し寂しいシントーの兄弟であり 母でもありたい。

時折、とても子供みたいで 危うげなこの人を傍で助けたい。

僕はこの時 強く思った。

「幸せな誕生日の朝だ。」

照れながら額をさするシントー

大きな笑顔が眩しくて 目を細める。

僕も幸せだよ ぴー あなたに逢えて。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

「あー 疲れた ぴー 膝枕して」

「なんで走って来たの?ダイエット?」

「タオルでちゃんと頭拭いてから!」

「そうですよ! ぴーに体中の肉 摘ままれたくないから!」

「アハハ あの時? 摘まんだっけ?可愛いよ ぷにぷにしてて。」

「会えばいつもでしょ! プライドってものがあるんです 一応。」

「ぴーは もう少し 太った方がいい 固い枕だ。」

「キーット じゃあ このちまき食べなくていいね」

「食べる! 走ったら 腹減った!」

「全くもう! 可愛くない弟だ 」




続く。



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