
昨夜は寝つけなかった。
枕が変わるとってあるだろう....そんな感じ。
クリスの柔らかな感触と、プルートーの温かさ足を絡めて眠ると とてもリラックスして入眠出来るんだ。
一昨日の夜、おやすみのキスをしてブランケットをかけると、
ぴしん しよ、、、、、?とブランケットに潜った。
クリスの誘いに 乗らない理由を上げるとすれば、明日 早起きする自信が薄れるからだ。
1回で終われる自信がないからでしょ?と胸に凭れる。 とにかく可愛い。
明日 起きないからね....諦めたクリスは、プルートーを抱いて 身体を縮こませた。
やっぱりクリスを抱いてれば良かった。
想像しただけで、下半身は、固く腫れる。
1人でしても虚しいだけだ。
僕は、もう クリスじゃなきゃ イケないから。
室温の下がった部屋.... ブランケットを全身にかけて 縮こまって眠る努力をしよう。
そうしてほぼ眠れずに、朝を迎えたんだけどね。
髪を少し整えて、カメラとスマートフォンを手にし、ベランダで乾かしていた クリスがプレゼントしてくれたサンダルを履き、ビーチに向かう。
この辺は野良猫がたくさんいる。
僕には天国みたいな場所だ。
旅行客に慣れているのか、脚に擦り寄って来る。それとも単に餌不足だから?
ねえ ノーン達、、、僕から知らない猫の匂いがするでしょ? うちの仔なんだよ。
にぁ、と鳴いて 上目で見つめられたら堪らない。
幼い頃から、猫が好きだった。飼って欲しいと頼んだけれど、僕と育った鳥が居るからね、クリスは、犬を飼っているなんてからかうんだけど。。。。凶暴なのは解ってる。。。。。
ビーチに続く 通りに点々と座っている。
さっきの子はまだ着いてくる 縄張りはないの?例えば 皆が家族で、全部のエリアを歩き回ることが出来るのかな?
猫に構われながら、海への砂利道を進み、茅が茂る土手が道幅を狭めている。 凪いで静かな朝の海が視界に開ける。
昨夜の雨と混じって海水は薄緑に濁っている。
ボタンを押して、海岸を歩く。
誰もいない。まさにプライベートビーチ。
薄曇りの空と、地平線はほぼ同色で、境がない。レンズを通して見ると、ひとつの球体のようだ。まあ、地球は丸いのだけど、画的にもそう見えるって意味でね。
そう広くない、砂浜を、端から端まで、歩く、昨日と同じ、シントーと砂浜散策の画が撮れた。行き止まりの、大木の枝が垂れて重なった木陰で、腰を下ろす。
砂を手で掬い、感触を楽しむ。
この後の予定は、ある人と会うこと。2日目以降の宿と、ダイビングのコーディネートを頼んだ。運良く、宿無しにならずに、温かい食事に有りつけることに感謝すべきだ。
経緯は、少し休んで、ヴィラへの帰り道に話すね。
さっきとは違う猫が 脛を擦る。
どうしたの? 僕と一緒に行きたいの?
来てもいいけど、そんなに楽しいところではないよ?
ホテルの営業自粛 ...すなわち キャンセルだ。嘘だろ?払い戻しはされるけど、エアーは2日後の予約。。。。それにまだ、予定の半分もこなせてない。
レストランもほとんどが店を閉める中 僕は途方に暮れた。レンタカーもやってないだろうな…。 ぼうっと、閉まった店舗の前の椅子に座り込んでいたら、ある人に、声を掛けられた。
僕がどんな仕事をしていて、休暇中だと言うことも知っていた上で。
宿無し、食なしの僕を救ってくれた。
そういう旅行客が出ないことも懸念したんだと。ある意味 マーケティングに優れた人材だ。オーナー自らの足で、顧客となりそうな人を確保するのだから。
昼食をホテルのレストランで。
今日から 一室世話になるんだ。
その後のプランの事も ....僕にとってはここが重要。
ホテルのレストランに着くと、オーナーがたくさんの料理のテーブルに着いていた。
貸し切りにする必要があったのか疑問だけど、挨拶と握手を交わして、席に着く。
ソーシャルディスタンスですか?と聞きそうになったのを飲み込み、自分のために時間を割いてくれた事に感謝した。
オーナーは僕よりひと回り以上年上だろうか?笑顔を絶やさない 穏やかそうな人に見えた。
彼は業界では有名人で、僕は知らなかったんだけど、調べて解ったよ。
「僕は 君を路上で見かけた時 、この商売をしていたことに感謝したよ。」
ワインを勧められたが、飲めないのでと断わると、オーナーは自ら ミネラルウォーターの他に、飲料を持ってきた。
「貴方が声をかけて下さらなかったら、スコールで 持物全部を駄目にするところでした。」
料理を食べてと 食を促す。大きな肉の塊に、ナイフを刺すと、ぎこちない手つきに見かねたのか、オーナーはキッチンへと消える。
完全に人払いしているようだ。
ただの客の僕になぜ そこまでするのか?
堪の鈍い僕は、3度目に席を立った時まで気づかなかった。
「すまないね、肉塊をサーブするのはデモンストレーションを兼ねていて、コックがサーブするんだよ 、実際はね。」
オーナーはテーブルの12時の方向から手を伸ばし、細長いナイフで、肉を切り分けた。
「美味しいです、、、とても、、、」
しばらく僕らは、落ち着いて料理を味わった。どれも美味しく、本来ならこの土地の水産物などもコースにあるのだろうが、僕が苦手なことを伝えていたので、魚貝はひとつもない。
「ライレイから離れて、温泉も良いよ、もちろんダイビングは可能だ。」
ライレイビーチは、マリンスポーツは禁止されているようで、とても静かだ。もちろん そこが気に入って訪れた。
「ダイビングは簡易的なものを1度しか経験がないのですが、大丈夫ですか?」
「インストラクターがいるから安心して、、、ただここからは僕が同行出来ないんだが、君はマネージャーも付けずに平気なのかい?」
「元々 一人旅なんです。だから自分の事は自分でできなければ意味が無いのです。」
「自分を律するのには 理由があるの? 俳優で、人気があって 望めばなんでも手に入るのに こんな不便をする事はないだろう?」
やっぱり 聞かれるよな。。。。。
他人からはそう見られる。
華やかな世界
着飾って、颯爽として スタイリッシュで 生業を全面に置いて魅せる。
けれど、僕はそうじゃない。
純粋にこの仕事が好きだけれど、ゆくゆくは、撮る側の仕事で生計したい。趣味に収まらないカメラの扱いがしたい。
造られた僕だよ。 テレビに映るのは。
創った僕だよ。 不特定多数が目にするのは。。。。
僕が演じないのは 笑う時だけ
歯をむき出して、カメラ写りなど気にせず 大笑いするときだけ。
「強くありたいんです。僕が1人の男として 生きていくために。試して、見極めたいんです。」
オーナーはじっと穏やかに、僕を見ている。
年の功で 話を進める人かな… そうだったら、 僕はテーブルに置かれたままのワインに口を付けるかも、、、父親のような助言は、今は聞きたくない。
「退屈な話をする為に 昼日中、ここを貸し切りにする理由を君は聞きたい筈だ 、プラチャヤ君。」
さらに言葉を続ける。
「ビジネスの話を続けてもいい。カスタマーとして扱うのも もちろん正当だ。だが、私が 君に興味を示すのは、有名人でありながら 飾らず、ハングリーに自分の欲を満たそうとしているところだ。」
オーナーは席を立ち、椅子を僕の隣に引き寄せて座る。
「オーナー.....?」
ソーシャルディスタンス.... 言っちゃっても失礼じゃないよな…
「あの、、、失礼ながら、、、」
ショートパンツから伸びた太ももに手が置かれる。
顔が引き攣るのを抑え、笑顔を作る。
「日本酒で漬け込んだ牛肉は美味しかったかい?」
同時に腰へと這う手
「はい、、、どれも あの、、、khun...」
僕より 体格の良いオーナー、次にしようとしている事は気づけた。 こんな僕でも…
「この先 私が君を誘ったら、君は僕を拒否出来るかい?」
俯きかける僕に、言葉を投げる。
「俯くな。君が拒否できないとなれば 自分の弱さだ。律する以前の問題だ。」
オーナーはもとの位置に着席し、どうしていいか解らず 謝る僕に さっきまでとは違った顔つきで 話す。
「正直 君をどうにかしたい気持ちでいるよ。ここに来るには それなりに君は大人な態度で来るべきだ。バンコクに居る恋人なら 行くなと止めるだろうね。」
クリスの事を言っているのは 僕でも解った。
「服装 、身だしなみ、警戒心 君に乏しいのは その辺のことだ。それとも君は、演技をしているのか? 」
「そこまで器用じゃありません。」
軽装過ぎた 自分を恥じた。
オーナーがどういう人間か等と疑いもしなかった。
「そのようだ。無自覚の幼さと独特の魅力、君に興味を持つ人間なら 勘違いするだろうね。」
「僕のどこが ....?片鱗も無いのに、、、、、」
「そういうところだよ 一人旅の様相を醸すのさ 君が一流の俳優になったというオーラの現れとでも言うかな。」
オーナーは褒めているのか、貶しているのか
飲み込みの悪い頭は、直ぐに顔に出たようだ。
「フフフ、、、そういう顔も、魅力のひとつだ。さて、どうする? この後 私の部屋で、話以外をするのは?」
曖昧な態度が 周囲を惑わす
優柔不断だとか、頑固な頭の持ち主だとか。。。。
色々言われるが、本当にそうだ。
僕はずっと、中道を歩いてる気でいた。
気がしていただけだ。
でも、今回 解ったよ。否定は否定。
確かな是は、本心にのみある。
心のままに。
「いえ、僕には恋人がいるので、その人としか寝ません。」
謝って 席を立つ。
今夜の宿を失っても、守るべきは、自分の信念だ。
「うん!それそれ、そうあるべきだ! やっぱり良い男には違いないね。」
「オーナー、気を悪くしたのでは?」
優しく微笑む 落ち着いた大人の男
ゲイではないよ。試して悪かったと謝られる。
君だって、ストレートだろう?
それでも大事な人を見つけられた。
私が、もっと若くに、君に出会っていたら、男女なんて関係なく アプローチしただろうね。
人の想いとは、ひとつの形には 囚われないのさと。
「あなたの方が、役者です。おかげで 僕はまたひとつ 学びました。」
食事を続けながら、明日のダイビングの手配と、連絡先を交換した。
ここからはビジネスだと、クラビの魅力を発信する広告塔も請け負った。
とはいえ ライクだけどね。
マネージャーという人が奥から出てきて写真を撮った。
「このプリン美味しいですね。お土産に買って帰りたいなあ。」
「シェフにレシピを教わるといい」
オーナーは不敵に笑う。
「やっぱり君は可愛いね! シントー君。君を味わえる人が羨ましい。 君の可愛いノーンはプリンより甘いのかな?」
「 どうですかね、同じくらい甘くて、とても酸っぱいです。」
〜完〜
※おにいやん一人旅 まだまだ続くよ ダイビングまではマイペース過ぎなので割愛♡´・ᴗ・`♡