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【 2019.05.17記事 週末限定公開⠀】滴る水ー始まりの日ー 5

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愛し合っているならば なんでも我慢出来る

そんなの 嘘だ! 

激しい愛が絡み合うのに譲歩も我慢も出来る訳がない。







2560年 9月

差し迫ったコンサートの稽古が続く日々。
疲れきった男共の群れる中
一際 顔色の悪い僕の恋人を視界に捉える。

誰の膝に頭を置いて寝ていることやら、本人は気にも留めていないのは解る

しかし 鈍った頭で、噛みつきやしないかと 不安になる。

動きの多いコンサートの構成に、今回ばかりは 正直 焦っていた。

疲労は1日経っても取れず、食の細くなった シントーにせめてもの栄養だと、血を与える日々。
足の付け根の傷は癒えず、ズキズキと痛む。
シントーは、一度は断るが、傍へ寄れば、渇きを露顕させる。
その繰り返しで 数日経った。
キツくテーピングを巻き 固定してはいるものの ダンスレッスンは予想以上に堪えていた。

シントーは僕の傍には来ない。
僕の慰めが 彼の弱さになる。
知らぬ間に離れて、時にはひとりだけ姿が見えないこともあった。

僕はウロウロとケータリグを摘まんだり、仲間の間を歩き回り シントーの様子を探った。

色とりどりの果物の香りや、香ばしい鶏肉や海老の食事を皿に盛り 姿を探す。

というのも、
少しでも食事を摂らせて、人間らしい生活を送る。
僕らにとっての最重要かつ初歩の課題。

連絡を密に取り合い シントーの様子を把握する。だが、うまくいかずに 面倒だからと 食事をスキップして、睡眠を貪る… 

平気…クリスの血だけで 生きていける…

実際 出来るはずもない恐ろしい事だ。

体重は落ち 用意された衣装は直される。
その場しのぎのシントー用のピンとクリップ
彼の腰回りは、まるで、物干し状態…
かつては、同サイズの衣服を共有したものだ。

スタイリストはお手上げ状態で、細いパンツをこれ以上ないわと言うくらいに、縫いまくる。

ダボダボのスウェットに 伸びきった前髪で無造作に額を隠し、目を閉じて怠惰に眠る僕だけの吸血鬼.....となるのは 時間の問題だ。

こうなればいよいよ 僕の手元に置かなければ危険だとここ数日は強く考える。

ふと気付くと、長身の男が上から僕を覗き込んでいる。 目線を上に向けると 整った顔が微笑みかける。

「その美味しそうなプレート 誰のために盛りつけたの?」

「God..... これは その…」

「食べてもいい? ずっと持ったままだよ さっきからずっと見てた。」

駄目ならいいんだ。いっぱいあるからね、とテーブルを見渡す。

「いいよ あげる。 」皿を差し出す。

Godは、葡萄を一粒摘まんでくわえ、綺麗に皮だけ残して食べる。

「 シントー兄さんのだろう?知ってる。」

じゃあ聞くなよ… まあ言うわけじゃないが、僕はまたキョロキョロとシントーを探す。

「シントーぴー 疲れてるようだね。クリスは、兄さんの世話をやくのが好きなの?」

なにが言いたいのかは、僕なら解る。
正直 このコンサートのキャスティングには辟易した。他に誰でも務まるものをわざわざ こいつにする必要性を見いだすなら 見栄えとか相乗効果を期待してだ。

僕にとっては 苦しいだけ。
こいつとは友達より先に進む理由などない。

「まあね 気をつけていないと 家でも寝てばかりいるからね。」

嘘はついていない。 少しの牽制。
君の付け入る隙などありはしないと…。

「なぁ またクリスのマンションに行ってもいい?」

熱を帯びた視線を見ないように、皿を替え さっきよりも肉や魚を多く選ぶ。フルーツなどは後でいい。トングや箸を乱暴に突っ込み シントーの為の食事を盛る。


「あの日は クリスと居れて楽しかった。 それに一緒にライブ出来るのも本当に嬉しいんだ。」

受け止められるわけない

僕は これからずっと先まで シントーと居る

こうやって誰かに誘われたとしても

理由を付けて 断る 当たり障りなくが難しい。だが、慎重にならざる得ない。
僕らの秘密を隠すには… 
ナチュラルに振る舞うしかない。

「僕も 嬉しいよ 共演出来て。 遊ぶならどこでも遊べる。 今 僕たち 同棲を考えてるんだ。色んな利便を考えてね。」

嘘ではない。 その方がいい

遠ざける理由にもなる。

Godだけじゃなくて 誰でも。。。。。

「そっか、、、 ステディになったってことだね? 僕の入る余地はないか… 」

オーケーと大きな身体をすくめて 立ち去る。

胸で息を吐き 皿を見る…

ぐちゃぐちゃに折り重なった食べ物が山積みだ。

同棲 出来ればそうしたい。 

大学も卒業だ。 仕事も増える。

少し広めのマンションを買ってもいい。

今の僕なら出来ないことはない。

シントーの為に。

僕らの危うい生活を守るために。

僕は 探す。 僕依存の恋人を。

稽古場の隅でうつぶせで死体のように眠る 僕の依存者。

僕らは 始めなければならない。

新しい日々を。



2560年 11月下旬

「クリスの部屋 物が少なくなったね。」

「まあね 引越も意外と大変だ。 そういうシングは旅行の準備出来たの?」

「うん。韓国は寒いから 荷物がかさばって バゲージ ギュウギュウ!」

「帰国して 間違えてこっちに帰るなよ。」

「…僕の荷物 運んじゃったね…」

「少ないもんな 着るものは一緒でいいだろ?」

「うん あ、でも黒色の服は残して置いて。」

「解ってる。細かいことは帰ってから決めような。」

「クリス 本当に僕も住んでいいの?」

「お父さんも両親も 納得しただろ?」

「でも 本当の理由は言ってない…」

「全部 本当のことをいう必要はないよ。」

「クリスに 嘘をつかせたね…」

「いいんだ。 安心出来るに超したことはない。」

「コップンナ キット。 努力するから。」

「一緒に 乗り越えるんだ。 これからずっと。」

「 今夜 泊まっていい? クリスの…その…」

「いいに決まってる。 はっきり欲しいって言って?」

「気が咎めるんだ… なかなか口に出すのは恥ずかしいよ…」

「へぇ… シントー あんな事は言えるのに?」

Godの匂いなんかさせないでよ ベッドにも付いてるの?

「だって 嫌だった… このベッドはクリスの良い匂いで安心できるから…」

「じゃあ 言って。 今夜 何が欲しい?」

「クリスの血と体。」



夜を待たずに 僕らは始める。


欲望と枯渇をいっぺんに満たす行為


新しい日々を迎える為に。
















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