2563年 7月
「神父様、、、、、 夕食ですよ、、、、、」
3人分のテーブルセット
戸棚に仕舞われたままの もう1セット。
コプター君は ナイフとフォークを並べ、先に食卓についているキモン君の隣に座り、目を閉じる。

ロードから始まり、エイメンで祈りを終える 毎度の食事の始まりも、 ひと美声少ないのだ。
まだひと月と経っていないし、この光景も 唯 君の不在を除いては何も変わらない。
「あっ そうだ....神父様 、神父様の誕生日 来月でしたよね? 今年も 盛大にお祝いしましょうね!」 キモン君は覚えていてくれたのか… 去年は4人でお祝いしたね。 誕生日ケーキを彼が運んでくれた。1年の内で一番幸せだと思える瞬間を迎える。
そうだったね、この時期から 私の誕生日を企画し、執り行ってくれた 3人がとても愛おしかったものだ。
一昨年だったかな、七夕という星祭を知っていて、笹の葉に何やらいろんな飾りと、願い事を書いた細長い紙を吊るしていた。
私にも願い事を書いてと頼まれたので、
皆が 元気で過ごせますようにと 書いて吊るした。
「なんて書いたんですかぁ?神父さま 先端に吊るすなんて クリスマスじゃないんだから」と 彼は 無駄に高いとこ吊るさないで下さいよなんて からかわれたものだ。
良い思い出
まだ 私の中では 思い出にはなっていない。。。。。
そう簡単には思い出にはなりはしない。
「神父様、パスタ伸びますよ。捏ねた人に感謝して、召し上がって下さいよ。」
コプター君が、自分を指さして、フォークを手渡す。
「そうだね、主に感謝したばかりなのに、無駄にするところでした、、、すみません。」
「..... 神父様、食事が終わったら 話しましょうか。」
キモン君は 私の様子を気遣っている。
コプター君もまた 彼と同じように 気遣いを見せる。
「ご飯は楽しく食べるものでしょう? 神父様の 面白くないギャグが無くて 物足りないのですが。」
な ?と 二人は微笑み、元気よく 食べ進める。
「そうだね、私らしく、主のファニーな教えを説かなくてはなりませんね。」
ファニーってなんだよ!そういうところですよ! と早速 笑ってくれる二人。
私はこのふたりが居なかったら 今頃 もっと深い失意のドン底に居たことだろう。
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
「キモン、神父様と何を話すつもり?」
「Basたんのことに決まってんじゃん。」
「今更 聞くの?落ち込むだけじゃない。」
「あの時 ぴーも見たろ? Basたんが出て行った時。神父様の言葉聞いただろ?」
貴方の望む場所が最良です。
Basの涙、 Dun牧師の元へ。
どっちもきっと本心からじゃない。
「模範的だとでも思ってるんだろうね、、、 鈍感無責任神父」
俺も まあ 感じてるわ 幾らか気付くと思ってたけどね?俺達のセクシュアリティ 匂わせてみたけど 想像以上の創造主担だったってことなのか?
「直球で行くわ。 Basたんから毎日 神父様の心配LINEもうざくなって来たからさ。」
コプターが珍しく 自分からキスしてくれた。
寝ないで待ってると 俺の部屋を出る。
俺も祈ってみようか 不穏な空気を取り払ってくれるかな。どっちかって言うと旧約派だけど。
俺は俺なりに、イチパット神父を師事したからな。やるだけやってみるわ。みんな 幸せになって欲しいから。
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2564年 2月
気温の上がり方が尋常ではない事は この国の者なら いくら鈍くても解るレベル。
神父様は愛車にカバーをかけて、 来る日にスムースに乗れるように毎日メンテナンスをする。
SNSが生きているうちはロザリオとスマホが神の恵みだと 片時も離すことは無い。
僕達は逆だ。 そんなものは必要ない
キモンと僕....二人の時間を大切に生きる。
「神父様 午後からぴおふ達と仕事をします。なにか言付けはありますか?」
「では、防衛飯をSt.Gabrielに持っていってください。」
自分で取りに行くとは言わない。
あの日 神父様は誓ったそうだ。
キモンが泣くのを 黙ってそばで慰めることしか出来なかった。
チキンだと思っていた神父様を僕は見直した。
「了解です。写真撮ってきますね。」
待ってます!とアホみたいに大口を開けて喜ぶ神父様 。
「コプター君、、、、、、本当に良かったのですか? シェルターの推薦なら可能でしたのに。。。。。」
「.....いいんです。僕達が決めた事ですし、聖職者らしく生きるって決めたんです。」
自分だって 選択したのにね。
愛する人に全てを捧げるって アホみたいでかい声で言ったんだもんね。
尊重するでしょ? 普通....師の言葉を胸に生きたいなって。
「解りました。共に生きましょう。」
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2563年 8月4日
「Basくん、どうかな? 味付け変じゃないですか?」
ピエロギという 餃子のようなものを 作ってみた。 二人分だと 手の込んだ料理でも時間をかけず作れた。
気を利かせたのだろうか? キモン君とコプター君は、デートに出掛けた。
今日は私の誕生日。プレゼントが届くので 出かけないで下さいと念を押された。
今年は寂しい。独りきりのバースデー。
そう思っていた。中庭の扉が開くまでは。
「神父さま お誕生日おめでとうございます。」
賜りもの
恩恵
福音
ありとあらゆる 幸福が一気に私に降り注ぐ。
淡いグリーンのミストと共に Basくんが現れる。
「Basくん。。。。。どうして。。。。。」
「誕生日でしょ? お祝いさせて下さい。」
緊張する私の手に、小さな紙袋をかける。
「後で 開けましょう。僕、お腹空いちゃったな。。。。。」
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2564年 3月
「ちょっと!キモン君 、SNSって止まってないよね? Dun牧師、既読無視なんだけど! どうなってるの?Basくんと何やってるのかな!?」
「落ち着いて下さいよ、、、 Dun牧師は 神父様のように早打ちとか出来ないですって。」
不自由させてないかとか、Basくんは相変わらず可愛いかとか、写真送ってとか ほぼ毎日のようにやり取りする事に辟易してるんじゃ?って 周りは感じてるって思うんだよね…
「でもほら、クリット君は 毎日 挨拶スタンプ返してくれるよ… ビルキン君だって、大丈夫ですってメッセージくれますよ?」
そりゃあ 社交辞令ってやつだから。
この人 全体的にそういう所、弱いんだよね 昔から.....。
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2563年 8月4日 再び、、、、、。
「久しぶりに神父さまの手料理 美味しかったです。」
アロハシャツが白い肌に鮮やかに花を散らす。
「良かった....急ぎで拵えたからね、Basくんが来ることを知っていれば もっとご馳走を用意したのに。すみません。」
以前より少し長くなった前髪を耳にかける 。
美しいな。認めたくないが Dun牧師に愛されている証だ。
「あっ そうだ、、、プレゼント 開けてください。」
食後のデザートとコーヒーで、 やっとゆっくりと息を吐く。正直に言うと味が分からなかった。自分で作っていておかしな話だが、Basくんとの食事に予想を超えて胸も頭も舞い上がっていた。
ひと粒ルビーのピアス。
「つけましょうか。」
Basくんは 左耳につけてくれる。長らく通していなかったピアスホールは 辛うじて塞がってはいないようだ。プツンと皮膚を通る金属の感触と、真近に感じるBasくんの気配に 収まっていた緊張が戻ってくる。
「...うん 、いい感じです。」
「Basくん ありがとうございます。とても嬉しいです。」
「たまにでいいんで つけてくださいね。」
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2564年 6月
洗面台の鏡に自分を映し、左耳のルビーを撫でる。
あの日の彼からの贈り物
私は あの日 彼の意志を汲み取れなかった。
鈍さからではなく そうしなかったのだ。
甘やかな雰囲気を私は 断罪した。
燃え盛る炎の人 私はそのような勢いを押し留める。
口は、唇は 真実を語る門。
彼のキスを受け止める事は出来ない。
私は 恋人にはなれなかった。
ただひとえに 想っていたかった。
私のエゴイズムと身勝手な観念だ。
「おはようございます 神父様。今日もカッコイイですね!」
鏡にイケメンなキモン君が映る。
「おはようございます。 今日も一段と暑いですね。」
早起きの習慣がついた 私達は 時間をかけずに食事や身支度を整え 毎日の祈りと来る日の準備に時間を費やす日々。
貯蔵庫の一部を改造し、巨大な冷蔵庫と避難スペースに。おそらく 微々たる備えに過ぎないが、私達ではなく 誰かの助けになればというものだ。
「神父様、買い物 どうします? インターネット止まっちゃったし、宅配無理ですよ。」
「そうだね 。今日は 買い出しに出かけましょうか。シントー君とクリス君の結婚式の食事会もそろそろ準備しなければいけませんし。」
「週末でしたね。それまでに冷房が壊れないといいんだけど。」
着実に 迫り来る 最期の日
しかし 私達は 日々を過ごす。
「できることはなんでもしましょう。」
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2563年 7月末日
「Basたん、率直に聞くけど、Dun牧師と寝た?」
「は?ぴきむ なんでそうなるんだよ!」
呼び出しといて なんて事聞くんだと怒った顔を向ける。
「じゃあ なんで Gxxod神父の元 去ったんだよ。お前が居なくなって あの人 抜け殻っていうか、ミイラだぜ。」
「知らないよ!神父さまが僕に気がないんだもん、居ても辛いだけ。」
「だからって、神父様のライバルのとこ 転がり込むなんてどうかしてるだろ。」
ていうか あれのどこが気がないように見えるんだ。一も二もなく Basが優先だっただろうが。。。。。でもまあ 無理もないか、色っぽい事 ひとつもしないもんな。愛想つかされたって仕方ない。無意識にかそう仕向けてると勘違いするわ。
「もうひとつ 率直に言うわ。 神父様 お前のこと 大事にしすぎて 手出せないんだってよ。」
大声で言って。次の日 懺悔室に篭って出てこなかった事をBasに伝えた。
「...神職ってこと 抜きにして そう言ったの?」
「言ったよ。めっちゃ デカい声でな。」
何度も 甘い雰囲気になったことあっただろ?
その度にあの神担の神父様 自分を押し留めたんだよな。
「最期の手段だよ 神父様の誕生日で、Basたんがプレゼントになれ。」
「迫れってこと? 」
「メイクラブ したいんならな。」
「ちょ!それでダメだったら? 僕 馬鹿みたいじゃん....」
「Dun牧師も愛してくれる。心配ないよ。」
「しないって、、、牧師様とは。。。。。」
「だったら Gxxodのものになる努力しろ。」
「あと3日しかないじゃん。ぴきむ 練習させて!」
「やだね。俺は ぴこぷとしかセックスしないって決めた。」
もう! 帰ってと 本気で怒って、俺を追い出した。
本当に嫌になる。
誰かと誰かの恋の行方
それだけでも 頭が痛いのに。
ここ最近のバンコクは、いや 地球は なんだかおかしい。。。。。
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2564年 7月
またこの季節がやって来た。
明らかに違うのは、この街のゴーストタウン化。クルンテープ町内の人気はほぼ無い。
育てていた観葉植物を地植えした。
私が手をかけるのもここまでのようだ。
肥料も手に入らなくなった。枯れさせてしまう前に、美しく育った植物が いつかどこかで根を張って 生き延びることを願う。
「ぴがんが、お祈りに来てましたよ。」
「お1人で?」
ここの所 毎日 Gun君は祈りに来る。
「それと、最後の地球防衛飯を頂きました。」
3つの弁当が袋に入っている。
「そうですか。有難く戴きましょう。」
礼拝堂の燭台に火は灯らない。
残りのろうそくは最期の日に灯したい。
ステンドグラスから射し込む光は変わらず美しい。
時折、クラービアを奏でる 二人を、ベンチに座って聴いていると、この先の想像もつかない日の訪れが嘘のように感じる。
「先月 結婚した二人は、地下へ潜ったそうですよ。おそらく 彼らも。。。。。」
クリス君とシントー君は 盛大に祝われた。
彼ららしく 温かく楽しい 式に 皆 心から祝福した。
私が務めた最後の結婚式が彼らで幸いだった。
「期限ですからね。彼らの幸運を祈ります。」
°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°°ʚ✞ɞ°
2564年 8月4日
ピアスの小箱が見つからない。
机の引き出しにいつも入っているのに。
片方も穴を開けて 身につけようと思っていたのだが…
机の奥を探しても 見当たらない。
ノックの音がし、キモン君とコプター君が顔を覗かせる。
「イチパット神父様、屋内プールに遊びに行ってきます! 夜の誕生日パーティには戻ります。」
今や オゾンホールは完全に破壊され、ウルトラバイオレットは 最早 淡い菫色を目視できる程だ。
屋外で過ごすことは難しく 不可能に近い。屋内プールというのは、ドゥシット区にあるホテルの地下プールの事である。元気な若者は、こぞってプール遊びに興じている。
そうだった ピアスを探さねば。部屋のどこかだろうか…..
大事な人からの贈り物。
ルビーは私の誕生石。
陽に透けると ピジョンブラッドの赤が綺麗だ。
もしも この世が暗黒に包まれたら、この赤い輝きで、誰かが私を見つけてくれるだろうか。。。。。
彼が 私を光だと言ってくれた。あの日を思い出す。まだあどけなく、はにかんだ笑顔の少年が私の前に現れた時、彼こそが私の光だと思った。懐かしい日々を回顧する時間はどれほど残されているだろう。
鳥の囀りも 虫の声も聞こえない
無音の空間に1人
ロザリオをコートの下に収め、静まり返る礼拝堂の扉を閉め、私は自室に戻った。
近い日に、こんな寂しい時を 独りで迎えるかもしれない。
しかし 私は これまでの日々に感謝したい。
良くも 悪くも 私はこの職に就くことができ、導かれ たくさんの交流を持つことができた。
決して 神職だけで 満たされた日を送られた理由ではない。人と人との絆を深められた。
自分の生きているうちで、未曾有の事態が起きること、言い様もしれぬ厄災が訪れること。
それもまた 私の人生における ひとつの点に過ぎないのだろう。到底理解出来る事ではないのかも知れないけど、受け入れる準備は出来た。
残るは、大勢の命が救われることを祈るだけだ。
今夜は、私の誕生日パーティだ。
おそらく 今年で最後だろう。
皆の好物を作る。
そして 私の大事な彼の好物も。
それまで少し休むとしよう。
✠✞✟☩✙✚✛☦☨☥✝✜✠✞✟☩✙✚✛☦☨☥✝✜
貴方の為に 鐘を鳴らす
貴方がどこに居ても 届くように
私は鐘を鳴らす
たとえ すぐには 届かずとも
風が運んで、微かに 耳に届く
いつか 微かに。
「神父さま、起きてください。 誕生日の始まりですよ。」
私の仔羊達が戻ってきたようだ。
ドアが トントンと叩かれる。
カソックを正し、ロザリオを胸に掲げる。
まだ眠けで ぼうっとする。廊下は日が落ち薄暗い。
下目線に 私と同じカソックと黒いブーツが目に入る。
「やぁ すまないね、 直ぐに 食事の準備に取り掛かろうね......」
顔をあげると、思わぬ人の姿に目を見開く。
「神父さま、お誕生日の準備なら とっくに出来てますよ。」
Basくん。
「どうして 君が。。。。。君はシェルターに入らなくては駄目だ。」
Basくんは 微笑んで言う。
「お誕生日を僕に 祝わせて下さい。」
私は とても 単純な思考の持ち主だ。
図解すると、私のバックに 一斉に薔薇の花が咲き乱れた光景だ。
Bas君は 私の 手を引き、 かつて自分の部屋だった所へ誘う。
彼の耳に 私のと同じようなピアスをつけている。
「Basくん、そのピアス......」
「気づきました? 僕が神父さまにあげたもの、
ぴこぷに盗んでもらいました。」
それで いくら探しても 見つからなかったのか....
「一体 どうして、、、、、?」
「貴方のものにしてください。ピアスごと僕を。」
「しかし 君は Dun牧師と生き残らなければならない。」
首を振る Basくん。
「好きな人と最期の最期まで一緒に居るって決めました。」
だから シェルターは 妹に譲ったと。
「拒否しないで。僕をこれ以上 惨めにしないで。」
そんな事 私に出来るはずもない。
「私こそ不甲斐ないこれまでを赦して欲しい。」
ぎゅうっと Basくんを抱き締めた。
「神父さま、お腹空いてるでしょ? 僕が貴方のサパーです。」
「そ、そうだね.... お腹空きすぎてますね。Basくんに感謝して頂きますね。」
最後になるか 、、、、、
解らないけど、私は 人生の最後に 最も素晴らしい糧を得られるようだ。
主に感謝しなければね。 頭と体は、Basくんのフルコースを堪能する事に完全に持っていかれてるけどね!
「神父さま、朝まで、いえ、、、心ゆくまで 食事を楽しみましょうね。」
GxxodとBitches [完]