梅雨入り間近。。。。Y地方
期間限定第2弾 ご感想お待ちしております。

葬列が遠ざかる
秋雨で煙る墓所
黒い傘がふよふよと雨をはねのけ 僕を濡らす
誰も居なくなった母の墓石の前で 僕は傘もささずに立ちすくんだ。
父が差し出した傘を無言で押しのけた。
泣いていたのか ただ雨に打たれただけなのか あの時のことは思い出せない
ただ 悲しかった記憶だけが 真新しい墓所の佇まいと共に思い出される断片だ。
「ぴしん、傘入って。」
霧雨か… クリスの腰に手を回し、くっついて収まる。
大きくはない傘だ。寄り添わなくてはならない。
「いつもの派手な傘はどうしたの?」
黒い傘。 会社の忘れ物を借りたのだと。
鼻を掻いている。
「ぴしん ちゃんと入らなくちゃ。濡れて風邪引くよ…。」
気づかぬうちに 避けていたのか… 右肩が冷たい。
「・・・・・ ぴしんが落ち着く色を探さなくちゃね、 でも今日は、この傘で我慢して…」
未だにクリスに心配をかけている。
もうどれくらい経った?
僕は あの日を克服できていない。
ごめんねと泣いて 君を困らせた日々が辛くて堪らなかった。
それなのに 僕の薄弱な心は未だにぐずぐずとくすぶって悲しみの感情を他方へ向ける。
「キット 君が傍にいれば、なんだって乗り越えられるよ。 行こうか? タクシーを拾ってもいい。」
僕の恋人は優しい。 決して不用意な発言を責めたりはしない 、、、どんなに女々しく泣き喚いたとしても なにも言わずに 髪を梳いて 落ちつきを取り戻すまで それから、僕に囁く。
甘く優しく まるで子供をあやすように…。
解っているんだ…救われた気持ちだ。。。 けれど 厄介な性格は、しばしばクリスの労りを無駄にした。
黒い傘は突然に閉じられる。
雨粒がさっきよりも強く 僕達に降り注ぐ。
「何してるの? キットが濡れちゃうじゃないか!」
「慌てることはないよ 2人してこうなれば 平気だよ。」
「意味が分からない… 僕は大丈夫だから きちんと差して!」
クリスの手から傘を取り上げ、頭上に広げると、クリスは間髪入れず、傘をはねのける。
「 ぴーが入らないのなら 意味がない。 僕は…ぴーのいる世界が好きなんだ。」
勝手な言い分は飲めないね、とそっぽを向いてしまう。
Tシャツが素肌に張り付きそうだ。
「我が儘言ってごめん。先に帰ってて。」
着ていたジャケットを羽織らせ、クリスを置いて、来た道を戻る。
店の軒先を渡って あの子がまだ見ているから。
「シントー! 僕達決めたよね? お互い助け合うって、、、 ぴしんの苦しみも 僕の悩みも 二人で解決するって!」
傘の好き嫌いで お互いの将来を左右するとはどうなのか?
いや もちろん 傘一つで変わる訳ではない。 起因しているだけ.... 僕の過去のシガラミにね…。
「 僕は ぴしんの手を繋いで歩きたいよ。 あなたが背負ったもの いかほども…ほんの少ししか請け負えなくたって ぴーのことだいじに想う気持ちは誰にも負けないよ! 嫌なもの 無理やりさせないのは ぴーの信条でもあるだろ? 僕は、、、、、、いつの時も救われてるよ…」
短い呼吸 しゃくりあげて泣く寸前の子供のように、クリスは雨に打たれて、ズボンを握りしめる。
大事な人を 泣かすなんてな…
頭の隅っこに立てかけたままの 花柄の傘
あの日 母が 玄関に置いたまま 水溜まりはどんどん広がって、赤錆の染みを残した
愛してる人の死を受け入れられない 幼かった日々 自己嫌悪と、いつか父の代わりに家を支えることへの葛藤。
胸に渦巻いた不安を押し込めるように 心の中で閉じた傘
独りよがりで、幼稚な憐れみを受ける自分を作り出した。
「クリス 僕は君が居なくちゃダメだ。」
「居るよ ずっと。」
「僕が変わらなくちゃ 幸せにはなれない。」
「少しずつ 楽になろう。」
優しい 僕の愛する人。
泣くのをこらえて 僕の頭を撫でつける
強い男になったね。
「 偽らないで 生きようと思う。 僕らの関係も次第に解って貰いたい。」
「ぴーは 僕を受け入れてくれるってこと?」
うんうんと頭を振る。
ポタポタと雫が落ちる
前髪から睫毛へ 雨粒は涙と合わさって クリスの肩まで川を造った
小さな 始まりの河。
迷わない。
クリスの幸せは僕の幸せ。
「 この先 ずっと一緒に居よう お互いを大切に。」
僕たちは ずぶ濡れのまま 社屋に戻り、元あった場所に 傘を返した。
事務所のスタッフ達は驚いて 僕たちを取り囲んだが、繋いだ手は離れなかった。
「さっきの答えだけど、、、 クリスに相応しい人になりたい。受け入れるじゃなくてね、確かめ合おう。」
恋人としての セカンドステージ
いわば 見直しの期間だ。
社名のプリントTシャツとバスタオル
休憩室で だらんとソファに身を預ける。
「兄さんらしい 考えだね。」
クリスは笑っている。
「5年目だね 一緒に居て。もう一歩前に踏み出すよ。」
決意がこれまでになく固まったのが解った。
クリスの手を握り 自分の膝へ置く。
戸惑って、入り口に目を遣るクリス。
今までの君の兄さんとは違うんだよ。
大事にする。そこは変わらないけどね。
「オィ ぴー 誰か来るよ…」
「僕たち もう少し オープンにしよう。 恥ずかしい?」
「家でのぴしんを出すのか?」
いいや それでは、ミステリアスじゃない。
「 今まで通りだよ。けれど 僕は 君に対して誠実に接するよ。 」
クリスは まどろっこしい僕の態度に イライラし始める。
「 誠実じゃん いつも 他にどうするの?」
繋いだ手をクリスの膝へと移動する。
ビクッと身体を強ばらせる 可愛い人。
「 キットの言動全てが 僕たちのリアルだと気づかせるように振る舞うんだよ。」
「それって….....」
クリス 君が取っ払ってくれた。
僕のトラウマのような過去を
黒い傘の記憶
色付きの傘への嫌悪
凝り固まった 僕の感情に熱風を吹き付け 飛ばしてくれた。
「愛し合ってる事実さ。」
無数の 透明な傘が舞い降りてくるようだ。
吹っ切れるってこんなにも気持ちのよいものなのか…
傘 ひとつひとつが僕が歩んだ軌跡
時折 混じる 綺麗で鮮やかな傘が クリスとの思い出だ。
たくさん たくさん 降ってくる
色とりどりのシーン
初めてのキスは まだ新しい。
薄紅に色づいて 心が震える。
「 愛し合うの?もっと深く…」
「うん 近いうちにね。 怖い? キット。」
人生でまだ見ぬ光景だ。
ミルク色の 不透明な傘に隠れて
愛し合う いつの日か。
「ん…まあね… 僕が上…だよな?」
「ううん 僕が上。」
真っ赤に染まるクリスの顔。
僕の手を引き剥がす。
いつもの兄さんだ、と睨む。
まだ 結ばれる前の行為に留まってるからね。
ここも一歩踏み出さなくちゃ。
「 ゆっくり 大事に進もうな。」
心と身体が繋がった気がした。
数年 離れ離れの僕の身体は一つに組み上がった。
この何でもない雨の日に
大事な人から愛を受けて。
コンコンとノックの音
温かい飲み物を差し出されて
それぞれの右手と左手で受け取る
繋いだ手はそのままに。
※SOTUSS 撮り終わった頃のSKをイメージ
※例えば 悲しい時期に見たり聞いたりしたことが 気づかないうちに嫌いなものとして認識していることってありますよね そう言う感じです。