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【22102017再掲】sweet pain,payback pain

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記事を移動させるため 最後に公開致します。よろしければ 秋の夜長のお読みものにぺこ


 夕食に間に合うようにと、空港を出発して、君が指定した場所へと向かう

車中で、何度も地図を確かめ、言葉も殆ど通じぬ異国のドライバーに指示をする。

画面を見せたり、ジェスチャーなんかで、、、 I see・・・・ばかりの鼻の高い男もまた、移民だろうか、、、、、元々の土地のものではなさそうだ。

 イタリアンの店だとテキストには書いてあったが、店の外観などの詳細はない。 

土地勘のない者が、うろつくにはそう狭くない町だ。マリーナが点在し美しい街は、暮れゆく街並みに灯る外灯と、間もなく開催されるオクトーバーフェストやハロウィーンの飾りつけも手伝って より一層街の景観を楽しいものにしている。

タクシーの運転手に、料金とチップを渡して、やや斜面のキツい道端に降りる。 大きなバゲージは、あいつの予約したホテルに空港から運ぶ手配をした。

だから俺は、バックパック一つのカジュアルな旅行者にしか見えないだろう。

 

 店を見つけるのは至極簡単だった。 なぜなら、あいつが、車に凭れて腕時計を見ていたからだ。

 

「迷わずに来れたようだな。 バックパッカーくん。」

 

 服装の正反対な俺たちは、 今からこの店に入るのだと思うと、まずは自分が躊躇する立場だということは一目瞭然だ。 ダークネイビーのスーツにキッチリとタイを結び、おまけに革靴ときた。それに比べて、俺は、Tシャツにボアジャケットに、ジーンズ、、、、そうきたら履きならしたスニーカーってもんだろ? 普通は。。。。。頭の先からつま先まで、舐めるように見るあいつは、満足そうに頷く。

 お前の予想通りの格好で現れた俺を楽しんでいるのだろう。

 

「パーフェクト。 どうだった? 旅の間 俺のことばかり考えたか?」

 

煩いよ。考えずにいられるか・・・・・。 突然メールをよこし、乗る飛行機を指定して、夕食に間に合うように、ここへ来いと。

しかもここへ着くのは三日後なのだ。 次の日の仕事を突然休む詫びを入れ、旅の準備をし、早朝に、タクシーでターミナルへ向かい、こいつが指定した便に搭乗する、そして数十時間かけて空港へ到着し、最寄りの町でハイウェイバスに乗り、このパブの前に着くようにタクシーの運転手と会話しなければならない。 会話というほどではなかったが、どうせなら、主要都市の一番認知度の高い街にしてほしかったよ。ここも勿論 観光名所だということは解ったが。 都市を経由させて辿らせた意味は解らない。

 

「お前の車? 空港まで迎えに来いよ。 馬鹿・・・・・」

 

「いいや レンタカー。 お前に俺のこと考えてもらいたくて 遠回りさせた。」

 

 いい加減な奴だ。 昔からだけど。 

口でも容姿でもこいつには敵わない。 

悔しいから 絶対に言わない。

会えない間、どれだけ会いたかったかなど。

お前がいない日々がクソみたいにつまらないなんてな

 

「腹減ったんだけど? 浮浪者と間違われて追い出されたりしないだろうな?」

 

「大丈夫。小汚い男が来て 追い返したりすると店が潰れると言ってある。」

 

全く どこまで本気なのか解らないが、自信満々な態度は 俺に戸惑う暇さえ与えない。

さっさと入ろうぜと、あいつを促すと、Wait…と、車のロックを解除する。

何してると、苛立つ俺の目の前に、、薔薇の花束を差し出す。 

 

「・・・・・これが 夕食か? 何本ある?」

 

「数えてない。 あるだけくれと言ったから。 お前への愛の形の一つだ。」

 

 さあ 行こうと、前の見えな程の花束を抱えたまま、腰に手を回される。

冷えた体が密着する。 どれほど前から俺を待っていたんだ。 初秋とは言え寒い。

こいつは、いつもそうだ。 自分がどれだけ苦労していても、表に出さない。

後で知って、こっちが恐縮することが多いんだ。 兎角俺には、そういう姿を見せない。

ただただスマートに振舞う。だからと言って、つまらない男でもない。遊ぶときはとことん遊ぶし、どうでもいいような情報をひけらかして、バカみたいに笑うし、俺を揶揄うことに対しては、右に出るものはいないだろう。どれだけ歯向かったって、敵いやしない。そうやって何年か付き合ってきた。

 

まあそう、、、、、 一般的な付き合いではない。

 

ストレートに愛をくれるこいつを好きなのも事実だ。

 

愛とはどんなものかと聞かれれば、こいつが無償でくれる愛だと答えるだろう。

 

 

 

 

 

 5か月ぶりに、対面して飯を食う。 ダウンライトと、テーブルランプの光だけで、雰囲気の良い店内。

端正な顔のこいつを見るのも、勿論 5か月ぶりだ。 光で濃淡で一層美しく見える。

ラビオリのスープと、香草とソーセージのサラダ  イタリアワインは軽めの赤。

注文を済ませていたのか、俺達の会話を遮ることなく 料理が並ぶ。

ワインの前に、小ぶりのワイングラスに注がれたキールで乾杯をする。 カシスの甘味が疲れた躰にじんわりと広がる。 ダークモラセスのかかった白エンドウ豆の前菜と良く合う。

料理のチョイスも抜かりないってことか。。。。。癪に障るが、こいつにはどうってことはないのだ。

 

「ところでだ、 お前はなぜ ここに俺を呼んだ?」

 

借りてきた椅子に置かれた薔薇の花束に目を落とす。 メッセージカードを見落としたのではないかと懸念した。 ありはしなかったが、薔薇をくれた意味は店の前で確認済みだ。

 

「なんとなく お前と過ごすならここの夕暮れと朝日が見たいと思ったからかな。」

 

ただそれだけの理由で?問うてみようと思ったが止めた。

こいつはそれなりに、レストランやホテルをリザーブするという足労をしたのだから。

 

 

「いいところそうだな。 朝にマリーナを散歩するのも良さそうだ。」

 

 仕事がひと段落ついていれば もっと羽を伸ばせていたかもしれないが、 月末の忙しさが控えている身で、海外旅行となると手放しで遊んでも居られない。

しかしこうなっては、一週間の休みを取った、非常な行動をとった同僚を蔑む行為を取られても文句は言えまい。気持ちを切り替えて、異国を堪能する他ないのだ。

 

「相変わらず暢気だなお前は、俺と居てまともに朝日など見れたことあるのか?」

 

「願望だよ、細やかな。 お前が叶えてくれればいいんじゃないのか?」

 

自信ないねとワイングラスを空にし、自ら注ぐ。 温かな店内では、ボアのジャケットは暑苦しい。

俺たちの座る窓際の席の 後ろの片隅にあるコートハンガーにジャケットを掛ける。

更にカジュアルになってしまうが、誰も気にはしない。

ただこいつだけは、やっと脱いだかという表情を浮かべている。それから少しばかりの驚いた顔。

俺だって お前ほどじゃないにしろ 身体鍛えてんだよ。お前に会わなかった期間、ジムに通ったり、走ったり。驚かそうと思って・・・・・。

 

「やっぱ 朝日は見れねーわ。」  ククククと楽しそうに笑う。

 

朝日が見れないんじゃなくて、朝まで眠れないって言いたいんだろう?

知ってる。 そうなるのは大体いつもだから。。。。。。

 

 

 取り留めもない会話。近況報告、それに織り交ぜられた浮気の有無。

こいつは俺に限ってそんな必要はないのに、信用がない。 俺が心配するのなら解るが、大してモテるわけでもない俺の気持ちを推し量る。

毎晩 送られてくるテキストに返信をする。電話やラインはしない。理由は恋しくなるからだと。

 

〝変わらず 愛してるか?″ と。

 

〝愛してるよ″と 打ち込んで 送信する。

 

あと半年もすれば、戻ってくる。 だからそれだけでいいから欠かさずにしようと。

自分が言い出したことなのに、ストレスになっていたのだろう。

ここ最近の文面が変わったこと、そして 今回の旅行の件に繋がったのだろう。

俺の淡々とした態度に我慢ならなくなったのだ。

約束が、お前の精神に異常を来したのだ。

 

 

〝痛いんだ どこもかしこも お前を愛しすぎている″

 

なんて返せばいいんだ。 その夜ついに言葉を見つけきれずに眠った。

翌日に、返信をしたが、こいつは無反応だった。

離れていることに疲れたか、それとも新しい恋を始めたいのか

測りかねたが、俺にはどうすることもできそうもない。

 

俺が痛みを取る番だ。 こいつをラクにしてやれるのは俺でしかない。

いつも通りに振舞うこいつを救ってやれるのは今しかない。

 

 

「手、出して。」

 

「何するんだ?」

 

「繋ぎたい。」

 

「できない お前に触れると すぐにでも抱きたくなる。」

 

「それでもいい。 お前に触れたい。」

 

がっしりと指を組んだ手をゆっくりと取る

 

きつく絡んだ指を優しくほどく。

 

 

「なあ、、、朝日なんかどうでもいい、なんなら部屋の内装も見なくていい。お前さえ見てればいい。」

 

綺麗な顔が僅かに歪む。 

 

痛みは自分にもある  

 

お前が感じると同じほどに。

 

「お前が思うより、俺はお前のこと愛してるよ。」

 

 

甘い痛み

 

苦しんだ分  痛みは最愛に変わる。

 

強がったお前が崩れるのを見るのも悪くない

 

だけど、今夜は 愛する以外の感情は必要ないようだ。

 

零れ落ちる涙が、俺に痛みをもたらす

 

代償を払う覚悟は出来ている。

 

お前が払った痛みの分だけ 愛を返すよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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