「ごめんな あきら…無理言ってさ…」
「いいって 顔も同じだし 1週間は敏って呼べよ」
スキー客が利用するロッジのバイト。
敏と海でするはずだったが、敏が流行りの風邪でダウンした
だから その代わり。
「でもさ、間違えて呼びそうだ」
接客業だからな… ロッジのオーナーもいることだし信用は大事だ。
「意識しろ 俺はゆき 今からな。」
海なら呼び慣れてるだろう。
「そんな顔すんな 特典のスキー滑り放題も魅力だったしな。」
「良いだろ! だからここに決めたんだ‼」
海は子供みたいな笑顔ではしゃぐ
小さなロッジだと言っても 11ある客室は連日満室。忙しさは夜まで続くだろう。
スキーウェアや用品のレンタルの受け付け
カフェコーナーのサポート
食事のサーブ
出来る雑用は何でもやる。
不馴れな俺たちにはちょうど良い、ゆったりと仕事が出来るのも有り難かった。
「ゆ…き、先休憩行ってきな…俺暖炉の薪を取りに行くから」
気がつけば 3時過ぎ 夕方の仕込みまでもう時間がない。昼休憩を十分に取らせてもらった分働けた。
「じゃあ 遠慮なく。」夕方になれば、スキー客も続々と帰ってくる。ナイターに備えて 早めの夕食を準備するのだと オーナーが言っていた。普通の宿泊客と違うのも 冬ならではの観光地の特色だ。
敏は俺よりもっとスマートにこなすのだろうな。
あいつ大丈夫かな…。
圭は看病は任せろと息巻いていたけど…。
移らなきゃいいが ベタベタくっついてそうだ 圭のやつ。
「ゆき、カフェラテ置いてるから…交代。」
海は戻って、ウエアの乾燥を引き継いだ。
ちょっとした休憩が出来る部屋に入るとテーブルの上にカフェラテが湯気を立てている。
小さなカップケーキが横に置いてある。
オーナー手作りのカップケーキだ
バレンタインデー用に 朝から拵えていた。
チョコや飾りのない客用のものではなかったが、ふんわりと軽くとても美味しかった。
今年のバレンタインは雪山で終わる。
雲ちゃんにはきちんと断った。
飯食いに行こうと誘われていたが、理由を話せばすぐに理解してくれた。
こういう点では、正式に恋人じゃないのは幸いだ。
身体と少しの愛情があれば足りるのだから。。。。。
カフェラテはほんのり甘く、幾分疲れた身体にじんわりと染みていく。
雲ちゃんに 雪山の写真を送った。
すぐに 既読になる。
“雪山よりお前が見たい” と。
こういうこと、、、 簡単に言うんだよな
この人は。
土産を買って帰る そう送って
スマホをズボンのポケットに押し込み、カップを洗って、接客に戻る。
悪い気はしないよ…
むしろ嬉しい。
だけど いつまでこんなこと続けられるのか
考えていないわけじゃない。
雲先輩は社会人 この人の将来に俺がいるのはリスクにしかならない。
恐らく簡単だ。やめればいいのだから。
海が、客の女の子に笑いかけながら対応している。
そうだよな… 俺にだって出来ないわけじゃない。
このバイトを機に 変えていくのもいい。
自分自身を
カフェテリアに客が座っている。
海の🔙を通りすぎ チェックを手にオーダーを受ける。
夕べから泊まっている 女の子のグループだ。
テンションの高い女の子たちは、俺のことを聞いてくる 矢継ぎ早に…バイトなの? 地元の子?と
「いえ 一週間だけここで働きます。」
ニッコリと微笑んでかしこまりましたとその場を去る。
後ろで、自分のことを話している声が聞こえる。
高校時代が懐かしい… 双子の敏と圭とで昼食時は女子の垣根が出来ていたことを思い出した。
「あきら、モテテんじゃないの? もしかして」
「知らねーよ…つーか ゆきって呼べって言ったろ?」
「あー ごめん ゆき、さっきのとこ俺が行っていい?」
普通はそうだよな…
俺には興味が薄い
でも変えていくのなら こういう事からだよな。
「駄目 俺の客だ」
海は晟のケチと口を尖らす。
「うみ 今度名前呼んだら スキーさせねえぞ」
ごめん ゆき!と海は大声で謝る
まったくこいつは…。忙しいのか抜けてるのか、、、、、
のんびりな敏にとって海はちょうど良いのだろう。
だからか…
俺にも心地よく感じるのは。